「途中下車前途無効」が消えた

 灯火管制・禁酒法の敷かれるなか、中央本線は勝沼ぶどう郷駅近くの廃寺で、NPO富士山ふるさと研究会の会議が開かれることになった。午後1時30分開会である。
 せっかく甲斐の国まで踏み込むんだから、午前中は甲府まで足を延ばしたい。         
 山梨県立図書館に立ち寄りたいのだが、昨今はコロナ対策のために閲覧は1時間以内という規制がかかっている。本音としては9:00〜19:00という開館時間をフルに粘りたいのだが、この際やむをえない、溜まっている調べ物だけでも処理しておこうか。
 問題は鉄道運賃。
 勝沼まで往復するとすれば、町田〜勝沼が84・8キロだから片道1520円の往復で正味の3040円になる。
 甲府まで往復すると町田〜甲府の片道106・4キロだから、ジパング倶楽部の往復割引が利いて2760円である。
 ところが帰りは、この区間は切符が「途中下車前途無効」となるので、馬鹿正直に申告すれば、2760+1520=4280円に膨らんでしまう。
 一つの便法として、帰りは甲府から勝沼まで別の乗車券420円で乗って、無人駅の勝沼からジパング割引を使ったことにすれば、2760+420=3180円となる。
 あるいは甲府から無人駅の春日居町まで200円で乗って、そしらぬ顔して勝沼で途中下車して途中乗車し、町田の改札を抜けるときに春日居町で乗りましたと言い抜ければ2760+200=2960円で済む。

 勝沼ぶどう郷駅にはときどき駅員の姿が見えることもあるから、そのときは予定していた ように220円を精算する。
 200円ぐらいいいんじゃないという声も聞こえないではないが、そこで諦めないでもう一声、諸悪の根源である「途中下車前途無効」なるものの根拠はなんであるかと考えてみた。
 JR東日本のホームページをみると次のように書かれている。
《「途中下車」とは、旅行途中(乗車券の区間内)の駅でいったん改札口の外に出ることをいいます。次の例外を除き、乗車券は、後戻りしない限り何回でも途中下車することができます。》
  ここでいう《次の例外》とは何か。
《片道の営業キロが100キロまでの普通乗車券
 大都市近郊区間内のみをご利用の場合の普通乗車券
 回数券》(以下略)
  町田〜甲府は片道100キロを超えているから、問題は《大都市近郊区間内》にありそうだ。
《大都市近郊区間内のみをご利用になる場合の特例
図のそれぞれの大都市近郊区間内のみを普通乗車券または回数乗車券でご利用になる場合は、実際にご乗車になる経路にかかわらず、最も安くなる経路で計算した運賃で乗車することができます。》

 つまり例えば、甲府から中央本線に乗って八王子で乗り換え、八高線を使って高崎に出て、両毛線で小山に出て、さらに友部から常磐線に乗り換えて上野に出て、京浜東北線で東神奈川で横浜線に乗り換えて町田で初めて改札を出るという酔狂な大旅行をしても往復2760円で済むという意味である。 

 その代わり、わが国に鉄道が敷かれて150年になんなんとす、甘くはないですぞ。
《重複しない限り乗車経路は自由に選べますが、途中下車はできません。途中で下車される場合は、実際に乗車された区間の運賃と比較して不足している場合はその差額をいただきます。》
 
 中央本線をどんどん西に進むとき、松本の先までの切符を買わないと“近郊区間”外に出ることはできない。

 甲府駅改札を出た正面に“カフェ&ワインバー葡萄酒一番館”という立ち飲み屋ができたんだが、ここで湯飲み茶碗一杯の葡萄酒を引っかけようと改札を出ると、改札機が乗車券を取り込んでしまう。

 右側の有人改札口で職員にお願いしても、まずは通してくれない。

 やったことはないが、絶対通してくれないだろう。

 それではもっと手軽に“近郊区間”外に出ることはできないだろうか。
 たとえば、町田から往復で南甲府までではどうだろう。甲府から身延線に乗り換えて4・4キロ、片道190円。
 ジャーン!
 
 町田から南甲府まで往復2760円で、「途中下車前途無効」が消えてしまいましたね。
 これまで静岡や富士宮に行くのに自由に途中下車していながら気づかなかったのですが、東海道本線・熱海駅と中央本線・甲府駅は、JR東海とつながっている特異点だったのです。
 応用が利きそうですね。