村山古道巡視 20年その4

 苔は村山古道の宝である。南北に流れている熔岩流がここだけ西にはみ出している。転げ落ちた無数の熔岩塊にまみれる苔も新緑である。

 ほかの植物との共生を嫌うのか競争が弱いのか、ミツバツツジは保水の悪い栄養分の少ない熔岩流に沿って分布する。

 標高1600メートル、スカイライン縦道の村山古道入り口にも新緑が登ってきた。

 大樅はカニコウモリ、コウモリソウが芽生えたばかり。堪えきれなくなっていたモミの朽ち木が倒れ込んでいた。

 この上のヘツリを渡ると小倒木帯の棒道が始まる。村山古道随一の急坂である。地形全体が凹んでいるので雨水が登山道に集中して流れる。
 水を逃がす場所も限られてごつごつの瓦礫地なので土嚢を造ろうにても詰めものになる土砂がない。水路がきちんと掘れて瓦礫を積み上げたところの水切りは効果を発揮してくれるが(左)、多くは登山者に蹂躙されて1年も持たない。雨水は流れたいほうだいである(右)。

 岩屋不動への脇道は、一昨年の台風による倒木で通過するのに困惑するほどであった。多くは谷側に向けて倒れており、山頂からの吹き下ろしによるものと考えられた。いかんせん数が多いのと、太い倒木が多いので、去年の道普請はちょこちょこ、倒木の脇を通らせていただくか、大きく迂回路を造るにとどめておいた。
 ところが今回行ってみると、あの太いたいへんな数の倒木がことごとく片づけられている。

 丸太を切るときには、切り口が開くか閉じるか見極めておかなくてはならない。閉じてくると鋸が両側から挟まれて、押しても引いてもびくともしなくなる。そこでまず上からV字形に切れ込みを入れる。そして下から跳ね上げるように切り上げると丸太の自重ですとんと落ちる。
  2か所切らないと落ちないこともある。斜めの削ぎ切りなどベテランの余裕である。こういう名人芸をもっているのは誰だろう。
 岩屋不動に降りる最後の斜面は、足許の熔岩流の塊が立ち木ごとずり落ち、枯れ木は根を剥き出しにしている。底が雨に洗われるのか、地割れにしみこむ水の氷結が原因か。去年より酷くなっている。

 しかし洞窟自体には驚くべきことが判明した。
 つぎの2枚の写真をよーく見比べていただきたい。

 人が写っていないこちらが2020年5月21日の撮影。

 男どもが首や手を突っ込んでいるのが2008年11月23日のすがたである。こちらはムラヤマフジコチャンのフォルダーから探し出してもらった写真で、両者のトリミングを揃えてある。
  すべての岩角、割れ目や隙間、凹みや出っ張りがピタリと一致している。差があるのは右下に写っているハンノキの太さだけで、12年間の成長を示している。できたらモノクロでいいから普通紙にプリントアウトして、重ねて透かして見ていただきたい。
 われわれは大雨のたび地震ごとに、割れ目が広がった岩が下がったと騒いできたが、それらはすべて思いこみ・勘違いであったということになる。
 熔岩洞窟は強靱である。2011年の3・11東日本大地震、その4日後に発生した震度6強の直下型地震にもびくともしていなかったのある。

  笹垢離に流れこむ雨水を防ぐ水切りは成功していない。六地蔵の残り3体ほか相当の遺物が眠っているはずで、発掘調査が行われるまではなんとか守りたいものである。

 大倒木帯はハンノキ、ナナカマド、トドマツなどが先陣を切ったがどうやらカラマツの幼木を中心に若い森林帯に遷移しているらしい。しかし基本的にはまだ禿げ山である。丸まった地形の割には登山道に雨水が集まって水路になりかかっているところが多い。

 日沢にはことしも雪崩が発生しなかったようだ。
 つぎの写真は2007年5月のスラッシュ雪崩の直後のものである。

 砕かれた木々の根や枝のほか、大量の土砂が流れこんで堆積していることがお分かりであろう。
 日沢は春先の雪崩で埋まり、春先からの雨で谷底が削られて秋にはV字谷になってきた歴史があるが、ここ数年雪崩が発生していない。つまりV字谷の底が一年中削られて熔岩流が露出するようになってきた。

 左は2016年6月12日、右は2017年5月23日の横渡の、左岸からみた写真である。地元の登山家からの報告によれば、17年3月にあの大きな岩組みが流されたらしい。右岸に残された丸太の位置から、横渡に何が起こったか推定してただきたい。
  ことしの横渡は去年とほとんど変わらない。

 雨に叩かれた踏み跡から考えて、おそらく1週間以内に1人の登山者が左のザレ場を登ったと思われる。右から回り込んでモミの幼木の上側を抜けるるルートが去年造ってあって健在である。

 

 おわりに。
 ことしの村山古道にとくに危険な損壊場所はなかった。登山道の路面も全体的には安定してきているという印象である。去年秋の風台風による新しい風倒木はほとんどんなかった。その代わり雨量はかなりあったようで、何か所か路面が荒れて歩きにくい所もできている。

コメント

道普請お疲れ様でした。

スズタケが枯れて村山古道の緑が少なくなったように思いましたが、苔庭は健在なんですねえ。ミツバツツジのピンクの花が際立ちます。

名人は見知らぬ名人の技にも思いがいく。
確かに鋸を引くだけでも大変なのに、見通しを立てながら切っていくのは経験豊富な名人ならではなのでしょう。

岩屋不動の洞窟は風雨にも地震にも頑として動かず。ハンノキだけが経年を物語る。文学的でもあり、教訓的でもあり・・・。
このハンノキ、足場の悪い岩屋不動に下りるときに、皆がつかまる頼もしい存在になりましたね。

スラッシュ雪崩がないということは、やはり富士山の降雪が減っているのですね。将来の水不足につながらなければ良いけれど。

笹垢離の仏様たち、これからも村山古道をお護りください。