乱丁 その4 書籍印刷の面付け2

 では、2ページずつという印刷はあったのだろうか。
 『群書類従』といえば、塙保己一が編纂した一大叢書。古代から江戸時代初期までの史書や文学、計1273種を収めて、寛政5年(1793)〜文政2年(1819)に刊行された(Wikipedia)。木版印刷である。
 次の写真(ムラヤマフジコちゃん提供)では「羣書類從卷第三百九 物語部三 竹登里乃翁物語」と読める。つまり『竹とりの翁物語』の書き出し部分であることがわかる。
 
 ここで注目してほしいのは、左右中央の折り目上部に「第三百九」、下のほうに「一」と印刷されていることである。これを背丁という。
 背丁の「第三百九」巻の「一」から順番に25丁集めて、1枚ずつ中央部を山折りし、重ねて右端を麻糸で綴じれば1冊完成。この2ページずつ印刷する木版印刷が、江戸時代の出版文化を支えた技術である。
 製本するときに、背丁に気をつけておけば乱丁は起きないはずである。
  ここでさらに小脱線。東京は渋谷の塙保己一史料館にはこの『群書類従』の版木全巻が保存されていて、開架式に並べてあるので誰でも閲覧できる。大部分は版木として現役だという。眼福というか、ちょっと賢くなったような気分になれる。

  ところが明治時代になって金属活字とより大きな西洋紙の製紙技術が輸入されると、1枚の紙に8ページとか16ページ裏表印刷して、折り曲げて製本するようになる。
 ここでまたさっきの『日本アルプス』に戻ってみよう。
   
 横から見ると、おやおやこの本は小口と地が裁断(化粧裁ち)してない。
 もちろん製本として未完成品ではない。フランス装といって、ペーパーナイフで1ページずつ切り開きながら読んでいくというのが、当時の上流階級の人々の特権意識をくすぐったらしい。
 ここで注目していただきたいのは、本文が16ページ単位で印刷されていることが誰の目にもはっきり分かることである。
 ただこうなると印刷面を左右に並べて刷るというわけにはいかない。
 1ページの裏に2ページが来て、その向かいに3ページが来てその裏は4ページ……これを頭の中でイメージできる人はいないだろうが、長方形の紙を3回折り曲げて、ノンブル(ページ数)を書きこんでみれば簡単である。
 つぎのように印刷面を並べることを面付けという。並べ方のほかに天地の向きにもご注意ください。

 もちろん印刷現場の職人さんはこの数字の並び方を暗記しいる人が多い。
 これを刷り上げて3回折り曲げれば1折り16ページが完成することになる。

 本を壊さないと見ることはできないが、『日本アルプス』のばあいでも。第1ページと第16ページの山折りになった峰には、『群書類従』の2ページものと同じような背丁が印刷されているはずである。
 ふつうこの面付けミスで乱丁が起こるのだが、これまでみてきた『富士の人穴雙紙』にしろ『中道往還』にしろ、ノンブル(ページ数)通りの正しい面付けであるのに文章が通じなくなっている。
 たぶん単なるノンブルの打ち間違いが原因であろう。

 したがってなぜそうなったか、論理的な解明はできないだろう。乱丁ではなく乱調というべきだろう。

コメント

渋谷にある「塙保己一史料館」には膨大な数の版木がおさめられていて圧巻ですね。そして、公開し説明して下さる。貴重な存在だと思っています。
右綴じ16頁折り、実際にやって確認しました。図に表すのは大変なご労作だったことでしょう、有難うございました。

  • ムラヤマフジコちゃん
  • 2020/07/24 14:59